JIS照度基準の見直し/東日本大震災に思うこと
福島第一原発の事故による節電対策として一番に実施されたのは、照明を消すことであり、石油ショック以来のライトダウンの社会実験ともなった。昼間、電車やホームの照明が消されていても特に支障がないのを知り、これまでの大きなムダに改めて気づかされた人も多かったと思う。
経産省から平成23年4月14日付けで「JIS照度基準」の形式改正の通達が出された。震災による止むを得ない緊急節電対策として、照度表記に幅を持たせた上で、現行の照度の約2/3にあたる下限値を採用することで全ての照度を一段階下げるというものだ。屋外空間では、住宅地周辺は3ルクスから2ルクスに、歩行者専用道は5ルクスから3ルックスに、40km/hの車両交通道路は20ルクスから15ルクスとなる。
夜の都心では明るさを落としたらかえって雰囲気が良くなったとの感想も多かったが、屋内空間では間引き消灯で憂鬱な空間になってしまった所もある。天井蛍光灯を全て消し、LEDスタンドに替えて90%の省エネを計画している企業が増えていると聞くが、手元が明るくても天井や壁が暗いため視覚的なストレスが生まれることは容易に想像できる。
そこで提案したいのはJIS照度基準の見直しである。全体を明るくする「平均照度」に替えて、必要な場所の明るさと周りの明るさのバランスを考える屋外作業場の照明基準にある「作業領域と周囲領域の照度との関係(JIS Z 9126 4.3.3)」を屋内設計基準にも採用するのである。例えば事務所は、これまでは部屋全体を500~750ルクスで設計していたが、「作業領域と周囲領域の照度との関係」を基準として考えると、スタンドで手元の明るさは750ルクス、部屋全体は100ルクスとなり、高い省エネ効果と同時に、快適な空間を創ることが出来る。
「震災による緊急節電対策」の長期化が予想される現在、高い省エネ効果を実現するためには、光源の選択、点灯回路設計、まぶしさの無い照明器具、昼光利用、昼光連動での点滅制御、を基本とした上で、働く人の心の健康を保つ照明環境の快適性を確保することを考えた、大胆な照度基準の転換が求められる。
(照明デザイナー 近田玲子)
|